卸問屋も運んだ六角巻凧(いか)。
六角巻凧(いか)発祥之地、三条の金物卸問屋との繋がり
金属加工業が盛んな新潟県三条市。江戸時代より続く金属加工の地場産業は職人だけでなく多くの商人によって支えられていた。
三条の職人が作った製品を全国に売り歩き、お客様の要望を聞いて職人と新たなものづくりをする。
職人と商人の築き上げた信頼こそが全国で「ものづくりの町 三条」と呼ばれる所以ではないだろうか。
金物卸問屋が全国に届けていたのは金物だけではない。三条の伝統工芸品でもある六角巻凧(いか)もその一つであった。
三条では「六角巻凧(いか)」と呼ばれ、その歴史は古く慶安2年(1649年)に三条に村上藩の陣屋が置かれたころから始まる。村上藩から旧暦の端午の節句、現在の6月に凧(いか)揚げをすることが奨励された。
このころは江戸凧と言われる四角凧を揚げていた。村上藩は若い人を人足として雇い、凧(いか)を作り上げさせていたと言う。一方、町の者は子供か年寄りしか凧(いか)の作り手はおらず村上藩のような大きな凧(いか)は作ることができない。
結果は火を見るよりも明らかで、何度やっても負け続き。
町の者はどうにかして陣屋の者たちに勝ちたいと考える。
どうやったら小さくても大きい凧(いか)に勝てるのか考え、生み出されたものが六角巻凧(いか)である。
六角の形からなるので少ない風でも揚げることができ、操作性も優れているので激しい空中戦が可能になった。町民の小さくても勝ちたいという想いと工夫から作られた六角巻凧(いか)で町民の勝利が続き、次第に陣屋も六角巻凧(いか)を用いるようになる。今では町内同士の対抗という形で発展し、三条凧(いか)合戦は平成27年に新潟県指定無形民俗文化財に登録された。
横骨2本と縦の中骨(芯棒)1本からなるシンプルな作りで、中骨を外せば丸めて持ち運ぶとこができることが六角巻凧(いか)と呼ばれる所以で、これほど持ち運びに便利なのは和凧の中でも六角巻凧(いか)ならでは。
この携帯性の良さも商人たちが売りやすかった理由だろう。
卸問屋が六角巻凧(いか)を取り扱っていた時代について須藤凧(いか)屋 六代目当主
須藤謙一さんに話を聞いた。
須藤凧(いか)屋の創業は1847年(弘化4年)、令和2年で創業172年を数える。
三条には昭和の初め頃まで凧(いか)屋は12、13件ほどあったという。しかし、後継者不足や火事など様々な事情で廃業を余儀なくされた。
現在三条に残っているのは須藤凧(いか)屋さんの1件のみで、三条凧(いか)合戦の凧(いか)は全て須藤凧(いか)屋さんで作られている。
「全国の六角巻凧(いか)は、三条凧(いか)と呼ばれるくらい、ほとんどが、三条産だったそうです。金物卸商の商売のアイテムになっていたのは祖父にあたる4代目の時代、戦後の頃までだったと思います」
三条の鍬や鎌などの金物製品は土地開拓などに用いるため、全国へ納めに行っていたという。
その時に一緒に持っていく商売のアイテムとして持ち運びのしやすい六角巻凧(いか)は子供のおもちゃだけの需要ではなく、工芸品として学校に飾ったり、結婚や新築などの祝い事の贈り物としても重宝された。
現在では卸問屋が販売のため全国に行くことはなくなったというが、六角巻凧(いか)は日本だけでなく海外でも知られるものとなっている。
2018年8月にはフランスで行われた日仏プロジェクトに参加。フランスで凧(いか)作りや凧(いか)揚げの実演も行った。
「海外でも六角巻凧(いか)は知られているというのはなんとなく知っていましたが、実際にフランスに行くと『ROKKAKU』と本当に呼んでくれていました。これほど浸透している文化になっているのだと、日本だけにいたのではわからなかったのでとてもいい経験でした」
今後は凧(いか)を揚げる人も、見る人も増やしていきたいと須藤さん。
作り手がいて、揚げる人がいて見る人がいる。そのバランスが大事で、見ている人がいつか自分も揚げてみたいと思ってくれることが励みになるそうです。
「息子も7代目を継ぐために少しずつ修行を始めてます。自分のように会社員をして外の世界を知りながら凧(いか)作りを覚えていって欲しいです。継いでもらわないと凧(いか)合戦もいつかできなくなってしまいますので」
ものづくりの職人が丹精込めて作った六角巻凧(いか)を金物卸問屋が全国に運び、今では日本にとどまらず海外でも高く舞い上がり、さらに広がりを見せている。
ものづくりの町に根付く三条の伝統文化を体験しに足を運んでもらいたい。
須藤凧(いか)屋
住 所:新潟県三条市東裏館2丁目2−16
電 話:0256-33-0616
営業時間:9:00〜18:00
定 休 日:月曜日・その他
HP:https://sudoikaya.jp/
e-mail:sudoikaya194028@gmail.com
三条凧(いか)合戦
開催日:6月第1週土曜、日曜(毎年)
場所:三条防災ステーション